夕食を食べ、20時ごろ就寝したものの、高地に大量の人を詰め込んだ山小屋は想像以上に息苦しく、良く寝付けないまま、23時半を回った時のことでした。
眩しい光と話し声が自分の目を覚ましました。何事かと目を向けると団体客が山頂へのアタックを開始すべく慌ただしく準備を始めていました。
八合目から御来光を見るための出発時間は深夜1時ごろが最適と言われているそうですが、この日は週末で登山道が混雑することから一足早く出発しようとしていたのでしょう。自分も0時過ぎから準備をして、八合目の山小屋を出発することにしました。
外は完全な暗闇に包まれていました。夜の街中とは違い、周囲に全く明かりがない暗さは本能的に恐怖すら感じるものでした。麓の方に目を向けると遠くの方に薄っすらと街の明かりが見える程度で、ヘッドライトを消すと何も見ることができない暗闇に包まれてしまうほどでした。
一番メジャーな登山道の吉田ルートと合流したあたりから登山道は大渋滞でした。狭い登山道で集合しようとする団体客や体調を崩してうずくまる人、脇道をガンガン進む上級者、様々な人が入り乱れ登山道は滅茶苦茶な状態でした。
ここまで来たら戻ることはできない・・・そう思い、登山靴で重たくなった足を無心で動かし山頂を目指し続けました。
そして八合目から無心で歩き続けること2時間半ほど、ついに頂上にたどり着くことができました。振り返るとそこには登山者のヘッドライトによる大量の光の列が連なっていました。
頂上では既に大勢の人が御来光を待ち望んでいました。自分もブルーシートの上に座り、御来光を待つことにしました。この時の気温は4℃、あまりの寒さに体はブルブルと小刻みに震えていました。御来光は4時40分頃になると聞き、寝てしまわない程度に体を休め辛抱強く待つことにしました。
音楽を聞きながらウトウトしていると空が少し明るくなってきました
そして御来光まで残り10分ほどになると空は明るいオレンジ色で包まれてきました。刻一刻と変化していく空を眺め続けた10分は人生で最も長い10分だったと言っても過言ではないでしょう。
そして10分後、遠くの空に小さな太陽が顔を出そうとしていました。
太陽はゆっくりと昇っていき、雲海をオレンジ色に染め上げて行きました。
そして、山頂は眩い朝日に包まれました。
真っ白な雲海と煌く太陽、その美しさは言葉では言い表せないものでした。心が洗われるような光景に誰もが無言でその景色を眺めていました。あまりの神々しさに、全身にパワーがみなぎってくるかのような不思議な感覚すら覚えました。
御来光に照らされた富士山の山頂は想像以上に険しい場所でした。明るくなって初めて見た火口の大きさには驚愕しました。
しばらく山頂をウロウロした後、自宅までの帰りの体力を温存するため早めに五合目に戻ることにしました。
下山道は、天の上を歩いているかのような素晴らしい景色の道でした。
1日近くかけて登ってきたにも関わらず下山は3時間ほどであっけなく終わってしまいました。来た時と同じ土産店でコーヒーを飲み、須走口を後にします。
今回の富士登山では4本あるルートの一つ、須走口を登破することができました。登山の前日までは頂上まで行けるか心配でしたが蓋を開けてみれば、初めての登山でも無事、頂上まで辿り着くことができました。残るルートは3本、全ての登山道を登破してみたいものですね。
(おしまい)